事例その3:fuRo(千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター)

千葉工大の未来ロボット研究センターfuRoの作ったロボットQuinceが、東日本大震災による原発事故以来、人の立ち入ることのできない福島第一原子力発電所の原子炉建屋内で活躍しています。この「Quinceの父」でもあるfuRo(千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター)副所長小柳栄次先生にお話をうかがいました。

fuRo 副所長 小柳栄次先生――― Quinceの特別なところとはどんなところでしょうか。
「一番構造的に面白いのは「フットプリント」と我々が言っているロボット上から見たときに地面と接するところです。その面積95%がトラクションを伝えることができる。他の建設機械は、上から見て面積があってもクローラの部分は狭いからパワーを伝えるのがそれこそ15%とか20%しかない。自動車なんて、タイヤの下はハガキ1枚なんて言うくらいで、ハガキ4枚分の面積しかパワーを伝えられない。だから、どんな姿勢、どんな格好になっても自分のパワーを伝えられるっていうのは、ものすごい特長ですよね。それと、前後左右にサブクローラがついていて、それぞれに独立したモータがついているので、無限回転もさせられるし、それを自由に操ることによって、瓦礫の上で安定化させる、あるいは段差の上部にサブクローラの先端をかけられる、地面で踏ん張って自分を押し上げちゃう、そういうことができるから、殆どどんなところでも移動できる。ともかく、瓦礫移動に特化したものを作っていったらQuinceの形状になりました。

(Quinceの次の原発対策用ロボット)Rosemary は普通の人にはQuinceと全く同じにしか見えないよ。でも、モータの大きさも違うし、まるで別物なんだよね。なんで見た目がそっくりになっちゃうかというと、実は原子炉建屋の中って狭くて、あれ以上大きなロボットを作ったら建屋の中で(ロボット自体が)動けないんですよ。階段の踊り場で旋回しなきゃいけなくて、90センチにちょっと欠けたところでぐいっと回るから、対角が90センチを超えるロボットはもう動けないんです。Quinceは元々、今回の事故のために作ったロボットではないんですが、88センチでぎりぎりちょうどよかった。Quinceより大きいロボットは(福島原発用としては)作れないんです。

Rosemary現地でQuinceが動いているビデオを何十回も見て解析して、その中から大きさの妥当性を割り出しました。少しでも大きいとバッテリがたくさん積めて楽なので大きさを変えたいと思っていたけれど、Quinceより大きくすることは無理でした。だから、RosemaryとQuinceは大きさがほぼ同じなので見た目がそっくりなんです。」

――― ロボットの名前は植物の名前をずっとつけていらっしゃるんですか。
「ずっと花の名前です。原発向けのロボットは日本でしか使わないので日本の花の名前にしてみたら、ということでRosemaryの次のSで始まるロボットの名前とTで始まるロボットの名前は日本の花の名前にしました。」

――― 『S』から始まる名前のロボットと『T』から始まる名前のロボットは何のためのロボットなんですか。
「『S』は僕らが言うところの先行探査型ロボットと言って、狭い空間をどんどん入って行って、内部のモニタリング、情報収集をすることが仕事のロボットです。

『T』は重量計測器搭載型ロボット。非常に重たい計測器械を搭載していく。その重量計測器が何かというと、ガンマカメラっていうのがあるんです。放射性物質から放出されるガンマ線の強度を計測し,写真のように記録することができます。

災害現場では「今、この空間の放射線量は12ミリシーベルトだ」という表現をしますよね、それは空間線量計による計測によるもので、ではその放射線を出している原因物質がどこにあるかっていうと判らないわけですよ。

ガンマカメラは、放射線の発生源が判る特殊なカメラです。だから「放射線10ミリシーベルトありました」という空間で、こちら側はなんともなかった。その逆側を中心に撮ったら、ものすごく隅の数値が高くて、そこにある大きな石を取り除くと、この空間の10ミリシーベルトの放射線量がなくなった。そういう風に発生源を測定できるカメラなんです。

ガンマカメラの計測面は、周囲の線量に応じタングステンで覆うんです。カメラの計測面本体は軽いのですが、遮蔽材が100キロ以上あり、カメラ本体は200キロもの重量計測器になります。

建屋の中には階段じゃない段差がいくらでもあるんですよ。そういう段差の周りはやっぱりむちゃくちゃ狭いから、大きいロボットじゃ走れない。だから大きさはQuinceの大きさにしかしない、と決めて、小さいロボットのくせして200キロ積めるロボットを作っています。」

――― 先行探査型ロボット「S」はQuinceやRosemaryと同じ働きをするんですか。
「そうですね、ほんともう計測器しか積まないですね。その代り、小さいですから、どこへでも入って行けます。

(建屋内で)一番重要なのは地下の格納容器で、サプレッション・チャンバーというドーナツ型をした冷却する部分のどこかにヒビが入って割れていて、いくら水入れてもそこから漏っちゃうんで、格納容器の底から60センチしかいまだに水が溜まっていないんです。それを、どこで漏っているんだ、というのを探しに行かなきゃいけない。

何が大変かって言うと、まず、地下は降りていく階段の角度が42度なんですよ。で、地下1階まで降りると、更にその下に行かなきゃいけないんですけど、そこは残念ながら水が溜まっているんで、それ以上は降りられない。地下1階まで降りて行って、ドーナツ型の容器の面にキャットウォーク…キャットウォークって言うくらいだからものすごく狭くて、表面がグレーチングといって網状なんですね。グレーチングの上をぐるーっと走りたいんですよ。それには今度は52度の階段を昇らないと、いけないんです。

だから狭い、急斜面、さらに網状の床を走れるようにするには、僕らがクローラと言っているキャタピラの山の突起を高くすれば、階段のエッジにひっかかるんだけど、今度、グレーチングの網にはそれが刺さっちゃう。まさにハイヒールが道路の溝にハマって「おっ」というのとおんなじになって、向きが変わらなくなっちゃう。それを回避しながらというと、すごく設計が大変なんですよ。結局、バカみたいな話で、ハイヒールはピン(ヒール)だから溝に刺さっちゃうけど、下駄だったら刺さらないだろうと。幅が広きゃ刺さらないだろ、という発想で、グレーチングの縦溝より広いキャタピラのものを作ればよい、と。

Hibiscus地下の汚染水を探るためには、いろんな探り方があって、当然、映像のデータはものすごく重要なんですけど、カメラは死角が多いんですね。カメラアームが自由自在に動けばいいですけど、なかなかそうはいかない。そこで、指向性の高い音響マイクも積んでいます。建屋内だと壁からの振動もあるので、そんなには特定できないけど、バチャバチャバチャって音がするとしたら60センチより上(水面より上)で打っている。全く水の音がしなかったら、亀裂部分は水中にある。どこから本当に漏れてるのか、というのを探り当てるためには、そういった音や、当然映像も使ってゆきます。水面にさざ波が立っていれば、さざ波の立っているところが、地下から吹き出ているということ。その場合、音はしないかもしれないけれど、水面を見て、どこの箇所(が亀裂部分なのか)って言うのを特定する。それが『S』の役割なんです。」

――― これらのロボットによって放射線の漏れている箇所が断定できたら、画期的に収束に向かいますね。
「判らないことが判ると、次の中長期に向けた対応ができるわけですね。少なくとも冷温停止はQuinceの成果ですよね。

丁寧に情報を収集して、これなら確実に解決できる、という技術を見出して作業にあたる。多分、その作業はロボット(もしくは建設機械)では全部はできない。だから、あるところは人がやるしかない。でも、人が行くことになったら、それはもう限りなく短時間でやるしかないでしょうね。」

――― これらのロボットすべてにマクソンのモータが使われているのでしょうか。
「そうです、モータは100%マクソンのモータですね。

ロボットにとって一番の敵は重量なんですよ。重量を味方にする設計が当然必要だし、敵になっちゃう重量は最初から排除したいわけですよ。その時に軽いモータはありがたい。

マクソンのモータは重量に対して出力が大きい。基本的な大きさのスペックがいいですね。」

小柳先生の経歴は非常にユニークです。高校教師時代、文部省(当時)の要請でコンピュータに関わる授業をカリキュラムに入れなければならかったことから、社会人学生としてコンピュータを勉強し直そうと一念発起され、筑波大学に入られました。

その時、油田信一さん(マイクロマウスや知能移動ロボット「山彦」シリーズでロボット工学の第一線にいらした)の元に行かれたことにより、ロボット研究に携わることになります。小柳先生の考え方はいたってシンプル。「モータをまわすことができればロボットは動く」。

その後、高校(教師)に戻り、「モータをコンピュータで制御する」ことを体得するためにロボットコンテストに挑まれます。輝かしい成績の数々はご存知の通りです。 

――― ロボット自体に魅力を感じたのは子どもの頃からではなく?
「僕はそういう意味では仕事でこの世界にコンテストから入っているんですけど、やっぱりモノって完成しないと面白くないんですよ。特にロボットなんて自分で思っているのは簡単だけど、できあがった時に自分が思った性能通り動いているのかというとみんな黙っていて、本当はこうじゃなかったんだけどってとこなんだけど、やっぱりそういう(自分の思惑と完成の)ズレをなくすことが技術だし、そういう意味ではロボットはそれなりに時間をかければ動くようになるし、時間をかけてもよくならないのがロボット。

だけどね、自分でできるようになるって実感もあるんですよ。こんなこともできるようになっちゃった。

ソフトウェアちょこっと変えたらロボットがこんな風に動いちゃった、ここを直したらこんなに気持ちよくなんとかできるようになったってすぐ実感としてわかるんですよ。

はっきり言って僕は教育屋です。研究屋ではないです。教育の方が面白い。人の方がいろんなミスを犯すから。だからfuRoに何人か学生がいるのも、学生といろんな話をすると面白いから学生と一緒にいる。

研究の面白さっていうのは、誰もやってないことができる。その一番面白さを感じたのは、今まで人の論文を見て、ああ、なるほど、こういう方法がいい方法なんだっていろんな文献を漁ってやってて、ふとある時に誰ももうやってない、これからはもう自分が本当にトップランナーだかホットランナーだか一番だって思った瞬間、しかもそれができた瞬間。それは何事にも変えられない。だから研究者になったのかもしれない。」

――― 今、ロボット工学を学んでいる人たちへメッセージをお願いします。
fuRo副所長 小柳栄次先生「何でもやったら、って話だよね。ほんとに。

シュミレーションみたいな疑似体験はいつまで経っても擬似であって、実体験には繋がらないよ。やってみなきゃわからない、ほんとに。

だから、失敗しなきゃ失敗の原因もわからないし、原因もわからないうちに次のものに移るなよ、と言いたい。失敗の原因が次に生かされないから。失敗はいくらでもしてもいいんですよ。でも失敗の原因がわからないうちに次に手を出すのは、単なるそれは逃げているだけで、それは「失敗は失敗のもと」でしかない。「成功のもと」にはならない。」

まだまだ福島第一原発事故の完全な収束までには膨大な時間がかかるでしょう。でも、その中で人間の入れないところに果敢に入っていって重要な役割を果たしてくれているロボットたちやロボット研究に携わっている皆さんにこれからも最大限の敬意を払ってゆきたいと思います。

――― お忙しいところ有難うございました。

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